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最高裁判所第二小法廷 昭和22年(れ)286号 判決

主文

本件上告を棄却する。

被告人大西保治郎に對し當審における未決勾留日數中九十日を本刑に算入する。

理由

被告人大西保治郎上告趣意書は「警察官ノ思違カラ被疑者トナリマシタ其ノ證據昭和二十二年七月二十三日京都法廷テ何人カラ煙草ヲ拾テモラウタ 答 曖昧 此様ナ特殊ナ事テ然モ一月足ラスノ事テアルノニ何故曖昧ナ事ヲ言フカ テハ拾テモラウタ其煙草ヲトウシマシタ 持ッテ歸リマシタ 此ノ時状袋カラ出サレマシタ煙草ヲ御呈示ニナリマシタラ 赤面無語 證據品ヲ何故其場テ渡シマシタ 中ヲ調ヘマシタラ二本有マシタノデ其ハ渡シマシタカ空箱ヲ證據品ト致シマシタ 此ノ時コロナノ箱ヲ押出サレマシタラ中カラ二本出マシタ コノ様ニ思違ヲスル人テ御座ヰマス 私ノ前科ハ昭和四年一月京都檢事局ニテ此事件ハ警察ヤ裁判所テ爭ハス今日マテノ事ハ双方水ニ流シ直接話合テ圓滿解決セヨ幸節檢事樣カラ御言葉ヲイタタキマシタ 相手方ハ面從腹背其結果カ原因トナリマシタ

昭和六年 略式罰金五拾圓 家宅侵入 傷害

昭和七年 無罪 家宅侵入 器物破毀

六年ノ時カ有罪ナレハ當然七年モ何故ナレハ両年トモ同シ檢事樣テ御座居マス 私ハ茶ト禪ヲ好ミ禁酒禁煙三十年來相国寺僧堂ノ御世話ニナッテ居リマス終戰ノ年住友製鋼所ヘ空襲空爆ヲモノトモセス京都カラ皆勤ヲツツケマシタ私ハ今日只今マテ人樣ニ迷惑ヲカケマシタコトハ一度モ御座居マセヌ此度ハ御手數ヲカケマシテ申譯カ御座ヰマセヌ何卒宜敷御願申上マス」といふにある。

右は要するに、被告人は原判決が摘示するような窃盗の行爲は犯したことはないと主張するもので原判決の事実認定を非難するに歸する。しかし事実の認定は事実審裁判所たる原審の専權に屬することであって、之を非難することは適法な上告理由とならない。しかのみならず原判決擧示の證據は第一審が證人として訊問した被害者平尾健二並びに被告人を逮捕した京都府巡査人羅治の第一第審三回公判調書記載の各供述であって右各供述によれば原判決摘示の事実は優に之を認めることが出來るから論旨は理由がない。

以上の理由により刑事訴訟法第四百四十六條に則り本件上告は之を棄却し、尚刑法第二十一條に從ひ被告人大西保治郎に對し當審における未決勾留日數中九十日を本刑に算入すべきものとする。

仍って主文の通り判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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